クーリヤッタムとは
最も古くて新しい花 ―― クーリヤッタム
インド西南端、アラビア海に面したケーララ州。この地域は、多 種多彩な芸能・文化がいまに息づく宝庫として、注目を集めてきま した。中でもケーララの人びとの誇る世界最古の舞踊劇、それが 「クーリヤッタム」です。古来インド各地では、サンスクリット劇 が上演され、数多くの戯曲が残されていますが、上演形態として現 存するものは唯一、このケーララのクーリヤッタムのみであり、そ の起源は千年以上に遡ることができるといいます。
数時間をかけて彩る化粧、きらびやかな装束、ミラーヴ(壷型の 太鼓)の演奏、サンスクリット古代叙事詩の朗唱、変幻自在な瞳の 演技、ムドラー(手振り)で示す神の言葉と感情の数々……。クー リヤッタムは、2001年、ユネスコの[人類の口承及び無形遺産の傑作]に指定され ています。
伝統は、つねに時代の新たな血を注入されることで、古き枝に接 がれ、花開くものです。今回来日する「ナタナカイラリ研究所」の 代表であり、演出家であるゴーパール・ヴェーヌ氏は、戯曲「シャクンタラー姫」(上演時間16時間に及ぶ)や 「砕かれた腿」(京都公演上演作品、叙事詩 『マハーバーラタ』にもとづく)のクーリヤッタム化において、 あ くまでも伝統的手法、理論に則りつつ、クーリヤッタムが現代に生 きる形を生み出そうと、渾身の力を傾けています。
2005 年、舞踊家田中泯が主催する「ダンス白州」による 招聘を核として、3度目の来日が実現(「シャクンタラー姫」の連続4 夜公演など)。2007 年1月、ケーララの「クーリヤッ タム・フェスティバル」に田中泯が参加。その折、新作「砕かれた 腿」の創作過程に立ち会った氏は、1年後の今年1月、 再び参加したケーララの地で、この新作の初演を目撃することにな ります。
――僕にはほとんど踊りに見えた!――「クーリヤッタム」は、伝統のみを墨守する硬直化した芸能ではあ りません。しかし自らの根を離れ、ただ未来の形を追い求めるもの でもありません。アジアの伝統芸能者は多かれ少なかれ、この命題 に直面し、精一杯に自らの命を生きようとしています。その中で、 得も言われぬ香りを放つ、最も古くて新しい花、クーリヤッタム。 ぜひ皆様に体験していただきたく、ここにご紹介いたします。